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<古いもの>

 
 

引き続き、前野直史さんを訪ねた際のインタビューを掲載します。前野さんの工房、窯場には至る所に古物が並んでおり、取り分け古丹波やslipwareが多くあります。それは、前野さんの現在の仕事の基礎となるものでもあります。陶器に携わる方に圧倒的に多い蒐集癖、おそらく私が見て来た中でも前野さんは多くの物をお持ちの方だと思います。若い時にはたまたま見つけてきた古丹波を前野さんに、お渡しさせていただいたこともあります。

それは、丸紋の壺や、赤土部の甕、白丹波の皿、小さな小さな薬研など、かなり稀なものもありましたが、私自身は現代の品を扱う身ですので、陶工の元に行くことが一番の選択だと今でも思います。

 

 

最近思うのですが、現代の作り手は、あまり古いものに関心の無い方も多いようにも思います。ひょっとしたらそういったものが必要の無いようになってきたのか、いやそんなことは無いはず。高価で手が出ないのか、中々、出会う機会が無いのだろうか。是非若い人たちには、古き良きものを手に取って見て欲しいと思います。

なぜ、現代の作り手に古いものを手に取ってほしいと思っているかですが、それは一番の手本にあるからです。昔の人たちの技術は底知れぬものがあり、それは製法的なものや、機械的な革新ということでなく、人間そのものの力量、手の技術のことを指します。当時を思い浮かべ、どのように作り上げたのだろうと本当に素晴らしい力量で作り上げたものが多いのは事実です。勿論、そうで無いものも沢山あるのですが、現代の品の比ではありません。

 

釉薬の剥離から染み入るオイルの跡、裏側が黒く焦げた跡があり、使っていたからこそ出る経年変化ですが、英国のスリップウェアを見せてもらいました。奥に見えるのは大判の4枚の布を繋ぎ合わせた丹波布です。こちらも頗る良い縞の大判布でしたが、ここでの説明は控えさせていただきます。

前野さん自身も多くのスリップウェアを作っていますが、厳密に言えば英国の技法ではなく、窯の仕様も違いますし、焼成方法も違います。そして日本で出来る土や釉薬を使ったものです。英国のスリップウェアを真似て作りたいのではなく、現物と対峙しながらどのように作ったのかを想像し、身の周りにあるものでご自身の仕事を体現しようされているのだと解釈しています。真似ただけのものは、あまり魅力的に感じられないものです。

古い物に惹かれて、模倣していくことを繰り返しながら、自分の仕事を作っていくことが一番の近道なのです。

 

 

丹波の蒐集の数は並々ならぬものがあります。一体何点くらいお持ちなのか、100点?200点?わからないくらい集めておられます。それは壺甕以外にも、土管など、こんなものを作っていたのかと感心できるものもあります。

ご自身の仕事の糧にするという先ほどの記述とは異なりますが、記録的に手に取っているものもあります。

本当に丹波のやきものが好きだからこその蒐集で、一個人としては出来ませんというか必要なものだけを取ってしまいがちですが、貴重なものであるのは間違いはなく、すごい事をしているなと感心します。

手前に見えているL字の茶色の陶器が、土管。その奥は定番の白に流し壺ですが、豊かなフォルムです。

<左:流し壺に墨流しを施しています。昔の丹波風スリップウェア

右:白丹波、粉引のような技法ですが、李朝のような柔らかい白>

<古いものがご自身の仕事にどう還元されていくのか、その道はまだまだ続いていくでしょう。昔の人たちがもっていたほどの人間力が培われていくのは、並大抵のことで無いように思います。>