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<存在感のないように>

 
 

大阪での仕事をされている時から、既に今田町に自宅と工房を構え、独立後、栗柄、そして今大山へ拠点を移した野澤さんの工房を訪ね、仕事についてと、作品への考え方や配慮についてお伺いしてきました。

初めて野澤さんの仕事を拝見させていただいたのは、漆の器や木のプレートなどの木工品ではなく、実は、内装の仕事でした。当時、益子starnetが東北の震災を機に、大阪の出店をしましたが、代表をされていた故:馬場浩史さんが大阪のお店で提供する食材を丹波まで探しに来ており、私も少しだけお手伝いをさせて頂いておりましたので、そこでお店に伺う機会があり、野澤さんの仕事に出会いました。

洗練された空間に、古材も取り入れながら、大変居心地の良い空間だったと覚えております。

 

 

 

 

そのお仕事は、大阪の仕事の延長線上だったかとも思います。因みに、奥様の香織さんは建築士ですので、古い建築のリノベーション・設計等、ご夫婦共同の仕事も引き続きされています。

居七十七という名のお店も運営していますが、このお店の内装も、また隣接する自宅の改装も、ご自身たちの手で設計・施工しています。窓が多く、自然光が入る空間に野澤さんの作品が所せましと並びます。

 

普段は、木工の仕事(木工品制作)を生活の軸とされている野澤さん、内装の仕事とは雰囲気が違い、日常生活で使いやすい木の器(皿や碗)を、主に旋盤轆轤で制作しています。

卸先や小売店から、沢山の注文が入ると、一定期間集中して工房に籠るそうです。

 

 

 

仕事に集中すると普段の優しい表情は一切無く、静かに木型に鑿を当てながら沢山の木の器を成型していきます。その際、削り出された木屑が常時舞い、工房の中は一気に木屑で埋め尽くされていきます。

顔や手、体中に木屑や粉じんが付いていきますが、身体と手は固定されたまま、大変根気のいる仕事。

 

 

 

多様な作品と顔を持つ野澤さんへの今回の話の目的は、実は皿立て制作についてでした。同じ土地に住む陶:柴田雅章氏から、皿立ての依頼を受けた野澤さんは、完成までに大変試行錯誤し、苦労したと。

 

木工品は先ず、木目。木目のどの面が、表情に出てくるかという所が、品の重要なポイントとなります、勿論美しい木目が見えるように計算して、材を慎重に選定し、削り出しをします。近年は材の確保にも苦労するのが、木工作家の悩みの一つでもあります。※なぜ材の確保に苦労するかは、また別の機会にお話したいと思います。

 

そして、湿度も大きく関係します。水分を含んだ木材は膨らみ、抜けていくと元に戻ります。ただ、造形のバランスが悪いと、湿度での膨張が原因で、割れや反りを生みますので、季節に応じて、削りや組木の方法を調整していく難しさも持ち合わせています。

 

今回、依頼された皿立ては、木目や造形についての観点とは別に、立てる皿への配慮が必要だったと聞きました。皿に掛かる脚の部分、それをどう収めるかに一番悩んだそうです。

皿を立てるための安定感も必要なのですが、皿に掛かりすぎると、皿の存在感の邪魔になります。

 

また、木目も表情に味わいがあると、逆に皿の表情を薄らいだ印象にしてしまいます。

野澤さんが制作した皿立ては、見事に自我を消した上で、皿を支える骨格はしっかりと保っています。

先に述べたように、木工という仕事(品)は、制作する中で、どのような表情が出るか、出来る限り良い表情が出るようにというのが、仕事の醍醐味や質というような世間評があります。

 

そんな中、野澤さんの皿立ては、敢えてそれを求めず、皿をどのように支えるかという視点に重きを置いているのです。これは、誰しもが容易に出来る事ではなく、多種多様な下支えを今までの仕事で経験されてきたからこそ、培われた能力では無いかと感じます。

 

<面取りをされた支えは、イチョウ型。土台の流線に沿って少し皿が傾きます。>

居七十七


 

[住所]兵庫県丹波篠山市大山上517

[電話]079-506-0343

 

お近くに行かれた方は、是非お立ち寄りください。

 

※現在はコロナの為、自粛休業中です。