多様な作品と顔を持つ野澤さんへの今回の話の目的は、実は皿立て制作についてでした。同じ土地に住む陶:柴田雅章氏から、皿立ての依頼を受けた野澤さんは、完成までに大変試行錯誤し、苦労したと。
木工品は先ず、木目。木目のどの面が、表情に出てくるかという所が、品の重要なポイントとなります、勿論美しい木目が見えるように計算して、材を慎重に選定し、削り出しをします。近年は材の確保にも苦労するのが、木工作家の悩みの一つでもあります。※なぜ材の確保に苦労するかは、また別の機会にお話したいと思います。
そして、湿度も大きく関係します。水分を含んだ木材は膨らみ、抜けていくと元に戻ります。ただ、造形のバランスが悪いと、湿度での膨張が原因で、割れや反りを生みますので、季節に応じて、削りや組木の方法を調整していく難しさも持ち合わせています。
今回、依頼された皿立ては、木目や造形についての観点とは別に、立てる皿への配慮が必要だったと聞きました。皿に掛かる脚の部分、それをどう収めるかに一番悩んだそうです。
皿を立てるための安定感も必要なのですが、皿に掛かりすぎると、皿の存在感の邪魔になります。
また、木目も表情に味わいがあると、逆に皿の表情を薄らいだ印象にしてしまいます。
野澤さんが制作した皿立ては、見事に自我を消した上で、皿を支える骨格はしっかりと保っています。
先に述べたように、木工という仕事(品)は、制作する中で、どのような表情が出るか、出来る限り良い表情が出るようにというのが、仕事の醍醐味や質というような世間評があります。
そんな中、野澤さんの皿立ては、敢えてそれを求めず、皿をどのように支えるかという視点に重きを置いているのです。これは、誰しもが容易に出来る事ではなく、多種多様な下支えを今までの仕事で経験されてきたからこそ、培われた能力では無いかと感じます。